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南房総・体験レポート

南房総・体験レポート

南房総横断
行き当たりばっ旅 - 後編

 どこかに出かけようと思うと、まずネットで検索が当たり前の昨今あえてスマホなし!カーナビなし!の気ままなドライブへ出かけてみた。向かったのは、房総半島を横断する長狭街道。太平洋岸と東京湾岸を結ぶ街道に、どんな発見や出会いがあるのか行き当たりばっ旅のワクワクをお届けします。

古民家時間へタイムスリップ

 再び長狭街道に戻り、保田方面へ。正午を過ぎたので昼食にしようと、クルマを走らせながらお店を探したのだが、道路沿いはのどかな田園風景が広がるばかり。長狭街道は、外房と内房を結ぶ幹線なので飲食店が充実していると思ったのだが甘かった。平塚入口交差点を過ぎると道路の左右に森が迫り、さらに山深くなってしまった。お店はおろか人家も見えない。保田まで出ないと店はないかもと心細くなってきたとき、道路脇に『古民家CAFE夜麦OPEN』と書かれた看板を見つけた。救われたような思いでクルマを停めて歩いて行くと「めぇ〜」とヤギの声。家も庭もひなびたもので、古民家をリノベーションした今時のカフェとは少々違う風情だ。玄関を入ると畳の上で猫がゴロンと寝そべっていた。

 この『夜麦』は、オーナーの杉山春信さんが、空き家だった築200年の古民家を、少しずつ手を入れているカフェ。時代を感じさせる襖、建具、壁、仏壇もそのままと、改修がほどほどなので、長年この地で営まれてきた里山の暮らしぶりが味わえる。カフェに来たというより、田舎のお婆ちゃんの家に遊びに来たような、ほろ懐かしい気分になった。

ほっこり安らぐ里山の味わい

 メニューは、自家製ベーコンのナポリタンとチキンカレーの2種類。ドリンクは、裏山で採れたみかんや金柑などを使った自家製ジュースと、ブラジル産有機ドリップコーヒーや有機スパイスチャイなどのホットドリンク。店長の碇石麻紀さんが、地元の食材や旬のフルーツの美味しさを引き出すシンプルなメニューを考案し、調理している。
 山浦夫妻は、それぞれナポリタンとカレーをオーダー。いずれも食材の風味を感じられる優しい美味しさで、気持ちまでほっこりしてくる。

 また『夜麦』では、手作りの天然酵母パンや焼き菓子を販売している。白パン、カンパーニュ、レーズンクッペなど、国産小麦粉の素朴な味と香りが楽しめると好評。午後になると品薄になってしまうという。
 そしてパンコーナーの横には、皿やカップなど陶芸作品が並んでいたので、碇石さんに聞くと、『夜麦』のオーナー・杉山春信さんのものだという。杉山さんは鴨川の山林の中に窖窯(あながま)を築き、約30年にわたって創作している陶芸家で、『夜麦』で使用している器やカップは、杉山さんの作品だとのこと。
 その素朴な色合いや手触りに、なんともいえない温かみを感じて、杉山さんの工房兼ギャラリー『笹谷窯』を訪ねてみることにした。

取材協力

古民家CAFE 夜麦
.050-1550-6348 営業時間/11時〜17時(火・水・木曜定休) 鴨川市金束1137
ホームページ│https://ja-jp.facebook.com/cafeyomogi/

自然と生きる陶芸工房

 『夜麦』から『笹谷窯』まで約2q。長狭街道を平塚入口交差点まで戻り、館山方面へ右折。200mほど行くと緑色の『笹谷窯』の看板が見えた。細い上り坂を進んだ先に、野菜無人販売所の棚があり、隣に駐車場が設けられていた。
 「カフェまでさんぽ、さんぷんさんぽ」の洒落たサインに従って、森の小径を歩いていくと、竹林に佇む平屋の建物が見え、竹の隙間から部屋の明かりが洩れている。下界と隔絶されたかのような静寂。異空間に足を踏み入れてしまったような感覚だ。
 そして、しっとりと風情に浸っていたのも束の間、出迎えてくれたのは大きなニワトリ!大きく羽を広げてスタタタタッと猛スピードで駆け寄って来た。ニワトリに挨拶し、引き戸を開けて室内に入ると、なんと正面の壁が剥き出しの土の斜面になっている。

 杉山さんが工房を構える以前、この場所は段々畑が広がっており、当時の土留めをそのまま壁として用いているとのこと。土の壁の上部には障子が設けられ、その向こう側が陶芸工房になっている。段々畑をスキップフロアに活かす自由な発想には脱帽である。
 杉山さんは鴨川に移住する以前、鎌倉で埋蔵文化財の発掘調査に携わっており、その仕事を通じて古陶器の美しさに惹かれたという。そして、古い資料を調べるうちに、古代の窖窯(あながま)の魅力に引き込まれ、古墳時代半ばに朝鮮半島の百済から伝来したとされる窖窯を、自分の手で造ってみたいと一念発起。理想的な土地を求め、鴨川に行き着いたとのこと。

 「館山に住んでいる友人を訪ねた時に、南房総の素朴な里山風景に心惹かれましてね。はじめ三芳の古民家を借りたのですが、風の吹き上がりが強かったため断念。窖窯は薪火で一週間以上かけてじっくり焚きあげる原始的な焼成の窯。火を焚く時、風が一番怖い。ここは地形が谷状になっていて、木の上の方は風で揺れますが、下はおだやかなんです」と杉山さん。
 段々畑の斜面を利用し耐火レンガを積み上げ、念願の窖窯を自分の手で完成。工房兼ギャラリーも自分の手で造り上げたという。

土と炎が織りなす芸術

 一週間以上も薪を燃やし続けなければいけない窖窯は、膨大な量の薪を必要とし、手間もかかる。そんな労力とコストを差し引いても余りあるほどの魅力が窖窯にはあり、それはギャラリーに展示された杉山さんの作品を見れば実感できる。ほのかに赤味を帯びた火色、素地肌の明るさ、グラデーション、焦げの味わいなどは、人の力が及ばない、まさに“火まかせ”の美しさ。

 ギャラリーはカフェを兼ねており、窖窯で焼かれた器に盛り付けられた料理や焼き菓子、挽き立ての珈琲を楽しむことができる。土肌の触感、手にしっくり馴染む心地よさ。古代から続く窖窯の炎が、心の奥底に眠っていた感性を揺らすのかもしれない。

 また『笹谷窯』では、一時間ほどの陶芸体験をはじめ、ニーズに合わせた陶芸教室を行っており、初心者から趣味人まで、幅広い層が工房に訪れるという。なかには、サーフィンの帰りに立ち寄り、少しずつ作品を完成に近づけていく人もいるらしい。週末、竹林に包まれた異空間に身を置き、作陶に浸る。そんなライフスタイルもいいなぁと思った。

取材協力

笹谷窯/Cafe SASAYA 陶房併設ギャラリーカフェ
.04-7098-0388 営業時間/10時30分〜17時(水・木曜定休)鴨川市金束905
ホームページ│https://www.sasayagama.com/
陶芸体験のお申込みは.090-7945-2789 杉山まで

 “行き当たりばったり”の軽い気持ちでスタートした今回の小旅行。ガラス工房、古民家、窖窯の陶芸と、期待を大きく上回るディープな旅となった。『笹谷窯』を出ると、だいぶ陽も傾き、長狭街道を走りきって保田海岸に着いた時には、夕陽が沈む直前だった。
 深く濃い発見の連続だった“行き当たりばっ旅”。次はどの街道を走ってみようか、旅の出会いは道の数ほどあるはずだ。

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